自己破産における相殺の対象とは?どういう時に認められる?
銀行口座の相殺ができるのは、その銀行だけです。銀行は、支払期日が過ぎている場合にのみ、相殺ができます。また、口座に給料が振り込まれた場合も、銀行はそのお金から相殺できます。
銀行が相殺をすることができるのは、その銀行が破産者にお金を貸していた場合だね!貸していない銀行は相殺できないよ!詳しく解説するね!
ぴよぴよ(親分に任せれば大丈夫っす)!
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自己破産において相殺ができるのは
自己破産の際に出て来る『 』とは、
貸したお金が自己破産によって返ってこなくなった。だから、銀行口座にあるこのお金を強制的に返済に充ててもらうよ。
というイメージです。この場合、その銀行口座の相殺ができるのは、
ですから、その銀行からお金を借りていた場合ですね。他の銀行口座は相殺されません。他からは借金をしていませんので、その銀行口座にあるお金だけが相殺されます。
例えば、三井住友銀行からお金を借りていた場合に自己破産をした。そして、銀行口座を二つ持っていた。それが、
- 三井住友=10万円
- 三菱UFJ=10万円
だったとする場合、相殺されるのは『三井住友銀行だけ』ということになります。
この例の場合で言うと、三菱UFJは全く借金の問題に関係していないから、相殺も凍結もできないし、逆に言うと、そんなことをする必要はないよ!ダメージがないわけだからね!
ぴよぴよ(なるへそ)!
相殺は偏頗弁済にならないのか
しかし、もしこの破産者が他からも借り入れていた場合はどうでしょうか。例えば、後5社から借り入れていた。銀行は1つだけですが、消費者金融から5社借りていた。そうなると、この『三井住友銀行の預金を、三井住友が相殺して借金の返済に充てる』という行為は、『えこひいき』のようにも見えます。
つまりこれは、自己破産の手続きが開始されてしまったら、この相殺行為は、『偏頗弁済(へんぱべんさい)』になるはずですね。
偏頗弁済(へんぱべんさい)
特定の債権者にだけお金を返す行為。えこひいきのようなもの。
この偏頗行為が認められると、自己破産自体が不許可になる場合があります。
破産法第252条にはこうあります。
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。※破産法(第二百五十二条)
つまり、このようなえこひいき的な行為があれば、自己破産の免責は下りない可能性があります。
相殺が認められるケース
それでは、違う例で考えてみましょう。相殺というのは、
- AさんがBさんに100万円を借りている
- BさんもAさんに100万円を借りている
というとき、『じゃあチャラね!』という状態になることを言います。これは簡単ですね。ですが、自己破産をするときは少しこの問題が厄介になります。
例えばAさんが自己破産をしたとしましょう。そして、AさんはBさんに対して『100万円を借りている』わけですよね。まだ相殺をしていない。ですから、『債権者一覧表』に、Bさんの名前を書く必要があります。ここにはすべての債権を書きますからね。未納になっている支払い、滞納している支払い、知人への借金等、全て書きます。つまり、
『Bさんから100万円を借りている』
と書くわけです。実際には、自分もBさんに100万円を『貸している』ので、相殺をすればチャラになるわけですが、この場合、相殺をしていないわけです。
相殺をしないまま自己破産をして、『管財事件』となりました。
- 処分する財産がある場合=管財事件
- 処分する財産がない場合=同時廃止事件
ですね。管財事件となったこの手続きでは、債務者の財産は全て破産管財人が処分を担当することになります。不動産や車を売ったりして集めたお金が200万円あったとしたら、そのお金を『債権者全員に平等に配当する』ことになります。
先ほど言った『偏頗弁済』の行為をしてはなりませんからね。偏った返済をしてはなりません。そして、例えば全部で5社(人)から借りていた場合、その200万円を5社(人)で割って、40万円ずつ配当することになります。
- Bさん=40万円
- 他4社=40万円ずつ
- 合計=200万円
ですね。しかしこの場合、Bさんは40万円貰っていいのでしょうか。何しろBさんは、Aさんに『100万円を借りている』わけです。そして、まだ一銭も支払っていないのに、相殺してチャラになるはずなのに、40万円を受け取る。これは首をかしげてしまいますね。Bさんはそれでよくても、Aさんや、その事実を知った他の債権者は、納得がいかないですよね。
従って、
ことになるわけです。これは、Bさんにだけそうやって相殺してさ、偏頗弁済じゃないかよ!
とはならず、
Bさんが相殺しないと、Bさんが40万円貰うんだろ?それって不公平じゃないかよ!
ということになるわけですね。
相殺は、『お互いの意思表示』だけで成立する
またこの相殺ですが、AさんとBさんがお互いに100万円を持ってきてて、
はい、これ100万円。ありがとう。じゃ、これ100万円。
と言って100万円を交換するのは茶番のように見えますね。ですから相殺は、『お互いの意思表示』だけで成立することになっています。
あれって、チャラでいいよな!うん。
ということですね。
友人間なんかで相殺をするケースがどういうケースかがわかったね!この辺りを考えると、なぜ相殺があって、それが認められるかということがわかるよね!
ぴよぴよ(なるへそ)!
相殺は『破産者が破産申し立て後に得たお金』ではできない
そしてこの相殺は、『
』ではできないことになっています。(先ほどのAさんとBさんのようなケースには関係しません。)
破産法第71条にはこうあります。
破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
一 破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき。
二 支払不能になった後に契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を破産者との間で締結し、又は破産者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより破産者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
三 支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
四 破産手続開始の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき。
2 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する債務の負担が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。
一 法定の原因
二 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因
三 破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因。※破産法(第七十一条)
つまり、先ほどのAさんとBさんの『互いに100万円の貸しがある』状態なら『互いの意思表示だけで成立する』のですが、これは違う場合の相殺のケースです。冒頭に書いた銀行のケースで考えてみましょう。
- 三井住友=10万円
の口座預金がありましたね。そして、それは三井住友銀行の、相殺の対象になります。しかし、ここに給料で20万円振り込まれたとしましょう。
- 三井住友=30万円
になりますね。では、これは相殺できるのでしょうか。通常は、給与は『差押え禁止債権』として扱われるため、相殺できませんが、この場合、口座に振り込まれてしまっているので、口座預金として扱われ、相殺の対象になります。
しかし、これは『破産者が破産申し立て後に得たお金』ですよね。それを、三井住友だけが相殺してしまうことは、冒頭にも書いた様に『偏頗弁済』に該当します。
三井住友だけ相殺できるなんてずるいよ。自己破産された以上は、破産者の財産は平等に配当しなきゃ!
ということになるわけですね。では、この場合の三井住友は一体いつ、いくら相殺ができるのでしょうか。
破産後に得たお金はまた別だね!破産者はそれら『新得財産』として所持できる権利があるよ!ここで言っているのは『破産申し立て後』だね!
ぴよぴよ(破産後と、破産申し立て後の違いっすね)!
支払期日が過ぎている場合にのみ、相殺ができる
実は、相殺は、こういう考え方が適用されます。
相殺は、自働債権と受働債権が対立した関係にあり、これらの種類が同種で、かつ、自働債権の弁済期が到来している場合に行うことが可能。
つまり、『弁済期が到来している』。支払期日が過ぎている場合にのみ、相殺ができるということですね。債務者には『
』がありますから、支払日が過ぎていないのに相殺することはできないんですね。期限の利益
債務者は、10日までに返すよう言われた。だから8日には返す必要はない。また、別に8日返してもよい。こういう債務者の権利のこと。
例えば三井住友のことで言うならば、三井住友に10万円の預金がありましたね。そして、Aさんは三井住友に10万円だか20万円だかを借りています。しかし、まだ返済期日は過ぎていません。それなのに、三井住友がAさんの口座から借金を相殺してしまっていいでしょうか。
そういうことはないですよね。
従って、借金の相殺は、『自働債権の弁済期が到来している場合に行うことが可能』ということになるわけです。
自動債権
自分が相手に対して持っている債権
受働債権
相手が自分に対して持っている債権
しかしこれは先ほどの『期限の利益』で考えた時、『受働債権の弁済期が到来している』かどうかは関係ないですよね。つまり、
三井住友さん、期日が来てないからあなたは相殺はできないよ。でも、僕が自主的に期限の利益を『放棄』して相殺を申し出れば、それは法的にも通用するよ!
ということになるわけです。この場合で言えば、
- 三井住友=10万円
ですから、それを『Aさんが申し出れば』、三井住友はこの10万円を相殺することができるということです。Aさんは口座に10万円入れているということは、
- Aさんは三井住友に10万円を貸している
- 三井住友はAさんに10万だか20万円を貸している
という状態にあるわけですからね。これは先ほどのAさんとBさんの状況と同じです。
しかし、
- 破産申し立て後
- 受任通知後(弁護士からの自己破産の手続きをすることが決定したという通知)
に破産者に入ったお金は相殺できませんし、支払期日が来る前にも相殺はできません。
期限の利益っていうのは、債務者側に与えられた権利だね!10日に返す約束をしたとき、8日に返すよう言われても、『約束は10日だ』として、その権利を主張することができるってことだね!
ぴよぴよ(なるへそ)!
『破産開始決定が出された場合、そこが期限の到来』とみなされる
ということは、先ほど言った様にこれらの条件に該当しなければ、Aさんが自主的に相殺を申し込まない限り、三井住友はAさんの口座預金を相殺できないのでしょうか。
答えは、Noです。
ここでいう『支払期日』は、『破産開始決定が出された場合、そこが期限の到来』とみなされるのです。
破産法第103条3項にはこうあります。
3 破産債権が期限付債権でその期限が破産手続開始後に到来すべきものであるときは、その破産債権は、破産手続開始の時において弁済期が到来したものとみなす。※破産法(第百三条 三)
従って、破産の申し立てがあった場合は、三井住友はAさんの口座から
よし、じゃあ今日が期限になるから、口座から10万円を相殺するよ!
として、相殺することができるんですね。
普通なら自動債権の弁済期はさっきで言えば10日だったけど、8日に破産手続きをした場合は、その8日が弁済期に変わる、ってことだね!そして相殺も可能になる。
ぴよぴよ(なるへそ)!
口座に給料が振り込まれた場合は相殺が可能になる
更に先ほど言った様に、通常は破産申し立て後、受任通知後に破産者に収入があった場合は、それは債権者全員に配当しなければならないし、それが給与だった場合は『差押え禁止債権』ですから、相殺することが出来ませんが、
口座に給料が振り込まれてしまった場合は、その口座が三井住友だった場合、それは『口座預金』として扱われ、相殺が可能になるんですね。
のです。破産法が、それを認めているんですね。
しかし、あまりにもそのお金が高額だった場合は、話が変わってくるようです。10万円くらいなら相殺の許容範囲内ですね。
だから、銀行には給料を振り込まないようにすることが大切だね!差し押さえられちゃうから!現金を確保するためにも、手渡しでもらうことが出来ればいいね!その後の生活に少しでも役立つし!
ぴよぴよ(なるへそ)!
お前は今日なるへそしか言ってないぞ!
ぴよぴよ(なるへ…)…
どーもっ!ものしりニワトリです!この記事に書かれた情報を、補足したり解説するナビゲーターだよ!