個人再生では相続放棄と分割協議のどちらが有効?
『相続放棄のような身分行為については、(再生債権者の利益を害する場合であっても)否認対象にはならない』という最高裁の判決が出ています。
しかし、遺産分割協議は『相続することを受け入れた』と判断されるため、これは相続放棄ではなく、身分行為ではないと判断されます。そうなると、否認の対象になってしまいます。
こうなってしまうと、債権者から否認権、場合によっては詐害行為取消権を行使されます。そうなると、『財産を不当に処分した』と判断されますので、法定相続分で計算して、清算価値が上がってしまい、債権者に支払う額が増えてしまいます。
したがって、遺産分割協議ではなく、相続放棄をすることがポイントとなります。
債権者から否認権、場合によっては詐害行為取消権を行使されるっていうけど、実際には個人再生ではその二つはできないよ!詳しく解説するね!
ぴよぴよ(親分に任せれば大丈夫っす)!
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清算価値に上乗せされる財産
個人再生をするとき、その手続き中に、遺産相続があった場合は、財産に影響が出てきますね。財産に影響が出て来ることがどういうことかということは、下記の記事に書きました。
清算価値ですね。これが高くなるということです。つまり、例えば500万円の借金があり小規模個人再生で手続きを踏んだとき、
- 最低弁済額基準=100万円
- 清算価値=80万円
だった場合、このうちの高い方の金額、つまり100万円を原則3年で支払っていく方向で固まっていました。しかしこれが直前に家族が亡くなって遺産相続があり、それをそのまま相続すると、自分に300万円の遺産が入るとなれば、
- 清算価値=380万円
になってしまいます。つまり、債権者への返済額も380万円になるということですね。まあこれでも120万円の減額が出来るわけですからいいといえばいいのですが、しかし、元々払うと決まっていた100万円と比べると280万円も多く払うことになり、ちょっと損をした感じもあります。
それを売ってお金にするとしても、売れるものならいいのですが、不動産などの場合、自分だけが住むわけではないケースもあります。例えば他の家族と共同でそこに住んでいる場合で、『自分の分だけを計算して300万円』ということになる場合がありますね。
清算価値の計算があるから、遺産を相続するとその分支払い額が増えるんだ!その支払い額はなるべく少ない方がいいからね!家を相続したって現金が入るわけじゃないし!
ぴよぴよ(なるへそ)!
家を家族で分けた場合、自分の部屋だけを売ることはできない
不動産の固定資産税評価額は900万円で、家族が3人いた場合、それを3分割して計算して、自分の分が300万円という場合があります。そうなると、自分の分だけ、つまりその家の自分の部屋だけを誰かに売るということは出来ませんから、ただただ清算価値が高くなるだけという状況が出来上がってしまいます。
この様な場合、『相続放棄』をする選択肢があります。 自己破産の記事でもこの件については考えました。
- ケース1『自己破産の申し立てをする前に、遺産相続をすることになった場合』
- ケース2『破産開始決定前に、遺産相続をすることになった場合』
- ケース3『破産開始決定後に、遺産相続をすることになった場合』
- ケース4『遺産が相続できることになったが、相続放棄をする場合』
どのタイミングで遺産を相続するか、あるいは相続放棄をするかということについて考えることができます。個人再生においても、相続放棄をすることで自分の財産の清算価値を上げない方法があるわけですね。
家を家族で分けた場合、自分の部屋だけを売ることはできないから、清算価値が上がってしまうだけになるんだ!この場合は900万円ではなく、法定相続分の300万円だね!
ぴよぴよ(なるへそ)!
個人再生の手続き中なのか、手続き開始後なのか
また、個人再生の手続き中なのか、手続き開始後なのかによっても対応が異なってきます。この記事で説明しているのは手続き中に遺産相続があった場合の話ですが、もし開始後に相続が行われたのであれば、それは自己破産で言うところの『新得財産』です。
つまり、個人再生の場合、その相続で得た財産は清算価値に含む必要はなく、それがもし現金であった場合は、その現金をそのまま所有することができるということですね。場合によってはそのままそのお金で借金を支払えることもあるでしょう。一括返済や繰り上げ返済については、下記の記事に書きました。
個人再生の手続き中か、それとも手続きの後なのか。いつ遺産を相続するかによっても、また細かく条件が変わってくるから注意が必要だよ!
ぴよぴよ(うーむ)!
相続放棄と遺産分割協議の違い
さて、この問題で注意しなければならいのは、
- 相続放棄
- 遺産分割協議
この2つは違うということです。 相続放棄は自分が一切その遺産を相続しないということですが、遺産分割協議は、例えば兄弟3人で、その遺産を分割するという取り決めです。
例えば先ほどの900万円の遺産のケースで考えた時、
- 兄:450万円
- 自分:0万円
- 弟:450万円
という遺産分割協議を行い、自分の取り分だけを減らすことで、一見すると自分の財産がないという風に仕上がりますが、これは財産放棄とは異なるもので、これをしても自分の財産は300万円であると判断されてしまいます。
- 兄:300万円
- 自分:300万円
- 弟:300万円
ですね。
遺産分割協議で分割にしても、結局法定相続分で計算されて清算価値が上がってしまうよ!だって家族なら口裏合わせはいくらでもできるからね!
ぴよぴよ(たしかに)!
遺産分割協議は否認権の対象
下記の記事で、『否認権』について書きましたが、
否認権とは債務者の不誠実な行為を否認する権利のことです。これは自己破産でも個人再生でも同じことですが、この否認権を行使することで、債権者は、債務者が行った、
- 財産を減らすような行為
- 財産を人にあげる行為
等を否定することができます。
実は、相続放棄は法律上、この否認権の対象になりません。
『相続放棄のような身分行為については、(再生債権者の利益を害する場合であっても)否認対象にはならない』
という最高裁の判決が出ているからですね。最高裁の判決は、水戸黄門の印籠のようなものですから、それに逆らうことは誰も出来ないのです。
身分行為
身分行為とは、養子縁組・離婚・離縁・婚姻などの、家族法における身分関係の取得や変動、消滅といった法律効果をもたらす法律行為のことを意味する。
つまり相続放棄はここで言う身分行為に該当し、否認対象にはならないとされているのです。
しかし、遺産分割協議は『相続することを受け入れた』と判断されるため、これは相続放棄ではなく、身分行為ではないと判断されます。そうなると、否認の対象になってしまうというわけですね。
こうなってしまうと、債権者から否認権、場合によっては詐害行為取消権を行使されます。そうなると、『財産を不当に処分した』と判断されますので、自分の財産は法定相続分の300万円であると判断されてしまいます。
法定相続分
民法で決められた法定分割という考え方があるが、その法定分割とは、民法で『財産の最善の振り分け方』として定めている分け方。法定分割で分けたそれぞれの法定相続人の取り分を法定相続分と言う。
- 兄:300万円
- 自分:300万円
- 弟:300万円
そうすると結局、
- 清算価値=380万円
になってしまうので、遺産分割協議ではなく、相続放棄をすることがポイントとなります。ただし、下記の記事に書いたように、
厳密にいうと債権者は、個人再生手続きにおいて、
- 詐害行為取消権
- 否認権
その両方を行使することができませんが、再生計画の棄却や不認可を主張することができるので、結果的に債務者のその詐害行為を妨害することができます。
厳密にいうと、個人再生で債権者は否認権も詐害行為取消権も行使できないよ!だけど結局は同じことになるんだ!
ぴよぴよ(なるへそ)!
相続放棄のポイント
また、相続放棄は相続できる財産があると判明してから起算して3ヵ月以内にすることが求められますので注意が必要です。原則としては、その3ヵ月以内に相続をするか、相続放棄をするかということを決める必要があるということですね。
例えば、この記事では『プラスの財産がある』ことを前提として話をしましたが、遺産の中には『マイナスの財産』もあるわけです。つまり借金ですね。この借金があった場合は、これを相続放棄しないと、自分に借金があった場合、そこに加えて更に故人の借金が上乗せされることになります。
つまり、3か月以内に相続放棄をしないと、自動的に相続をするということになってしまいます。これを『単純承認』と言います。一方、『限定承認』というのは、相続する遺産が『プラスの財産だった場合のみ、相続できる』というものです。
マイナスの財産がある場合は、プラスの財産があるとき以上に相続放棄をする必要があります。必ず相続放棄をしないと、状況がさらに悪化することになるので注意が必要です。
3か月以内に意思表示しないと単純承認されるから、わざと3か月間黙っている債権者もいるよ!だけどその場合は相続人は『知らなかった』と主張できるんだ!
ぴよぴよ(うーむ)!
どーもっ!ものしりニワトリです!この記事に書かれた情報を、補足したり解説するナビゲーターだよ!